浮世絵コンシェルジュ 畑江麻里

お知らせ

昨年11月より、展覧会の図録・展示作品の執筆をさせて頂いた、足立区郷土博物館の浮世絵展「歌川派と歌舞伎ー勇壮なる役者絵の世界ー」が2月10日より開催されています。

展覧会の構成は、序章から第四章までの章立てになっています。序章には役者絵の基礎を作った鳥居派、勝川派の作品。第一章には当代随一の役者絵師として写楽と競った初代歌川豊国の作品、続く第二章には豊国の門下の筆頭として活躍した歌川国貞・国芳の作品。第三章には勇壮な人物描写の役者絵だけでなく、ユニークな戯画や玩具絵。そして第四章には明治期に活躍した豊原国周らの作品が展示され、歌川派一門を中心に展開された多様な役者絵が繰り広げらています。 
(この展覧会ポスターは、歌舞伎座にも貼られていました。)

展覧会は4月6日まで開催されています。 
お近くにお立ち寄りの際は、是非ご覧ください。 

【江戸時代の歌舞伎と浮世絵】
※郷土博物館の図録参照
江戸時代における歌舞伎は、まず寛永元年(1624)年に猿若座が幕府の認可を得て興行を催したことに始まります。幕府の取り締まりなどに遭いながら、次第に「演劇」としての形を整え、江戸の娯楽として人気を高めていきます。この中で荒事などの演技演出が生まれます。
 浮世絵においては、まず菱川師宣が、歌舞伎の文化を墨摺の絵本などに描きました。しかし、これは歌舞伎という芝居小屋全体の情景を描くことに主眼が置かれ、役者個人を描くものではありませんでした。

◼︎鳥居派
これに変化をもたらしたのが鳥居清信(鳥居派の祖)です。
貞享4年(1687)大坂の女方役者であった父の清元と共に江戸に移住し、清元が携わっていた市村座の絵看板制作を継ぎます。彼は、初代市川團十郎が創始した「荒事」といった役者の演技や役柄に注目し、一枚摺の漆絵や丹絵にも導入しました。
 
鳥居清信は、清倍、二代清信、清春、清重といった弟子たちを抱えて一門を形成し、元禄頃の絵看板や番付などの歌舞伎関係の仕事は、鳥居派の絵師たちが独占的に制作したのです。
 
◼︎勝川派
明和2年(1765)多色摺り版画、錦絵の開発により浮世絵が豊富な色彩と精緻な表現を獲得すると、役者絵に、容貌を本人に似せるような写実性を高めた「似顔」への傾倒がみられるようになります。
この「似顔」の表現を確立し、定着させたのが、勝川春章(勝川派の祖)と一筆斎文調でした。

春章と文調は明和7年、江戸三座の役者を網羅した役者絵本『絵本舞台扇』を合筆で刊行し、市井に似顔表現による役者絵を定着させました。
この春章らの役者似顔の確立とその流行により、鳥居派に代わって春章とその門人の春好、春英、春潮ら勝川派に牽引されていくことになります。
 また、これに続く天明期には鳥居清長が当時の歌舞伎舞踊で流行した、浄瑠璃の太夫と三味線が観客に姿を見せて演奏する「出語り」の様子を描いて、役者絵に新たな表現を開拓しました。
 
 ◼︎歌川派
鳥居派と勝川派を中心として形が作られ、各時代の役者や芝居風俗を描いていった役者絵ですが、寛政以降、春章に代わってその頂点に立ったのが、歌川豊春門下の歌川豊国でした。
浮絵の発達に貢献し、それを駆使した風景描写に業績を残した豊春に対し、その高弟である豊国は役者絵に優れた手腕を発揮しました。戯作者・山東京山は、豊国が役者絵に優れた理由を、父・倉橋五郎兵衛が人形師であり、役者の似顔人形の妙手であったことに因縁があると述べています。
これより先は、図録をご覧下さい。

江戸随一の女形 三代目瀬川菊之丞

三代目瀬川菊之丞は、上方で生まれた日本舞踊市山流の流祖・市山七十郎の次男で、やがて芝居の世界に入り、二代目瀬川菊之丞の没時に後継者に指名された。二代目菊之丞と同様に、江戸随一の女形として高い人気を誇り、四代目岩井半四郎と共に、女形の両横綱として評されました。
こちらの作品は、「蘆屋道満大内鑑」の「子別れ」の場面が描かれています。
 
蘆屋道満大内鑑
【初演】享保191734)年
信田の森の白狐が、陰陽師の安倍清明を生んだという伝説を脚色した作品です。
安倍保名(あべやすな)と蘆屋道満は、相続をめぐって対立しており、相手の陰謀で保名の最愛の恋人・榊の前が自殺し、悲しみに暮れます。そこへ、かつて信田の森で保名に助けられた白狐が、恩返しにと葛の葉に姿を変えて現れます。そして保名と結婚し、子供を産み(のちの安倍清明)幸せに暮らしていました。ところが本物の葛の葉姫が表れて正体がばれ、身を引くことになってしまいます。狐の葛の葉は、「恋しくば 尋ね来て見よ 和泉なる 信太の森の うらみ葛の葉」と障子に書き残し、子別れを嘆いて姿を消します。
この何とも切ない場面が描かれているんです。

図録校正

博物館にて。
来年2月に開催される浮世絵展「歌川派と歌舞伎-勇壮なる役者絵の世界-」の校正をしました。
 
師走といえば「忠臣蔵」。
「仮名手本忠臣蔵」五段目の作品について紹介したいと思います。
(以下、長文になります。)
 
江戸時代の歌舞伎や人形浄瑠璃の中で、屈指の人気演目であった「仮名手本忠臣蔵」は、初演以降、ほとんどの浮世絵師が筆をとった主題です。歌川派絵師たちの作例も多く、その中に絵師各々の個性を見ることができます。
 
五段目は、娘婿・早野勘平の汚名返上のために大金を用立てたおかるの父・与市兵衛が、山賊に成り果てた斧定九郎に金を奪われ、殺害される場面です。
 
豊国以外の作品には、画面の周囲に枠が描かれており、国直と広重の作には大星由良助の二つ巴の紋が施されています。
画像を比べれば、歌川国貞(三代豊国)は唯一、財布を奪い取る見せ場の場面ではなく、財布を狙った定九郎が後ろから「おーい」と与市兵衛を呼び止める情景を描いています。これは人形浄瑠璃で演じられる情景です。
一方で国貞の作は、異なる時間を一つの構図の中に描き込む異時同図法を用いているという点で、彼の師匠である歌川豊国の作と共通しています。
両者の作は、後景に五段目前半の「鉄砲渡しの場」の早野勘平と千崎弥五郎を小さく描くことで、後景から前景へとストーリーを展開させています。
 
また、背景に目を転じると、 豊国らがいずれも田畑の風景を舞台にしているの対し、歌川広重は画面の中心に大きな松を描き、深い山道を舞台としているといったように、四図を比べ見ることで、同一の主題である各図の共通点と相違点が見えてくるのです。
 

葛飾北斎

上野の森美術館で開催された「葛飾北斎展」の美術館ツアーのガイドをしました。

北斎といえば、天保2 年(1831)に刊行された『冨嶽三十六景』のシリーズの「神奈川沖浪裏」が有名ですよね。

この作品は、北斎が70歳を越えてから制作した作品で、彼の代表作として知られます。
諸外国でも評価が高く、西欧の芸術家に多大な影響を与えました!
特に、ゴッホが「神奈川沖浪裏」を見て、画家仲間宛の手紙で賞賛したことや、ドビュッシーが同作品から発想を得て交響曲「海」を作曲したことは有名です。

この構図は、前景の波を思い切り大きく描き、視点を低く波間に置いて、遥か彼方の富士を観る遠近法が取り入れられています。これは北斎が初期に学んだ西洋銅板画の影響によるという指摘があります。

豪快に立ち上がる波が、大きく雄大なはずの富士山を小さい存在に位置付け、さらに波の飛沫が生き物のような動きを見せるのに対し、翻弄される小舟に乗る漕ぎ手たちは人形のように動きを硬直させるという構図が面白く新鮮です。
これは同時に静と動の対比であり、富士の不動、人間の無力さが、波の躍動の中に確かな主張をしています。


冨嶽三十六景について
『冨嶽三十六景』は、様々な場所から見える富士山の姿を表情豊かに描いた錦絵のシリーズです。

当初36枚揃いでの刊行が予定されていましたが、好評を博し、さらに10枚追加して46枚で完結しました。
最初に出版したと思われる36枚は、主版に文政12年頃から浮世絵に使用されるようになった輸入化学染料のベロ藍(プルシャンブルー、ベロリン藍)を使用しています。

この36枚は俗に「表富士」と呼ばれ、主版に墨を用いた残りの10枚は「裏富士」と呼ばれます。

①表富士
人物などの輪郭線が青
(この青い輪郭線は、最近の研究でベロ藍ではなく、それまで用いられていた青である本藍であることがわかりました)

②裏富士
37~46までの10作品 
人物などの輪郭線が黒


また、このシリーズで、北斎の署名は全部で四つの分類に分けられます。

この『冨嶽三十六景』の成功をうけ、その後歌川広重をはじめ、他の絵師たちも名所絵、風景画を積極的に取り組んでいくことになります。


メニュー

INFORMATION

【お知らせ】

2024年11月23日(土)

14時~16時30分

「第4回畑江麻里の初心者でも楽しめる浮世絵講座」を開講します!

2024年10月

三井住友銀行が発行する小冊子『ことも』に取材撮影され、掲載されました!

※この小冊子はエルダープログラムに加入している方のみに配布する冊子です

SMBC『ことも』10月発行号

巻頭特集

2024年9月21日(土)

映像メディア学会で講演

「浮世絵イノベーション」

 ※9月28日(土)にこの講演の報告会を森下文化センターで行います

2024年5月26日(日)

京都きもの市場が主催する日本最大級の着物展示会

5/22(水)〜5/27(月)

@東京丸の内KITTE

このイベントにて

「初心者でも楽しめる浮世絵講座」 が大盛況にて開催されました

15時〜、16時〜の2回。

(満席クローズ)

2022年11月4日 双子を出産

 【テレビ出演】

2022年9月19日(月)

フランスのテレビ局"ARTE"

歌川広重特集に出演しました!

"Invitation au Voyage"(邦題:旅への誘い)

 9/19 18:10〜

放映リンクはコチラ

【浮世絵連載(全5回)が掲載中】

「畑江麻里の初心者でも楽しめる浮世絵講座」で取り上げた内容の一部
「浮世絵きほんのき!」(全5回の連載)が、
京都きもの市場が運営するメディアサイト「きものと」に掲載中!

 

一点もの?大量生産? vol.1

https://www.kimonoichiba.com/media/column/759/

 

黒一色からフルカラーへ vol.2

https://www.kimonoichiba.com/media/column/795/

 

浮世絵はどうやって作られる?vol.3

https://www.kimonoichiba.com/media/column/826/

 

 浮世絵の題材はこんなにも幅広い! vol.4

https://www.kimonoichiba.com/media/column/930/

 

美人画は当時のファッション雑誌!? vol.5(最終回)

https://www.kimonoichiba.com/media/column/1003/

 

◆2022年7月24日(日)

「第3回  畑江麻里の初心者でも楽しめる浮世絵講座」

14時から16時30分

6/24、7/10と大好評だったので、さらに追加で、オンラインで開催します!

2022年7月21日(木)

 

都内の大学で、ゲスト講師として講座とワークショップを行いました!

 

◆2022年7月10日(日)

「第3回  畑江麻里の初心者でも楽しめる浮世絵講座(オンライン)」を追加で開催!

 

◆2022年6月26日

「第3回  畑江麻里の初心者でも楽しめる浮世絵講座」

今回も定員以上となり、大盛況で開催しました!

インスタグラム@hataettiで近況を更新中!

フォロワー3000人を突破しました!

◆Instagramのサイトは、

コチラです!

 

 お気軽にFollow Me

2022年6月20日(月)

都内の大学でゲスト講師として講演しました!

◆5月19日(木)

 ロータリークラブで講演しました!

「浮世絵美人画にみる評判娘ー笠森お仙を中心にー」

◆4月30日(土)

TOKYO MXテレビ『ぐるり東京江戸散歩』「江戸時代のアイドル」に出演しました!

修士論文で取り上げた「笠森お仙」を中心に、現代のアイドルと女優さんに解説してきました♪

※6/7までTVerという配信アプリで見逃し配信しています

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2022年夏頃

フランスのテレビ"ARTE"歌川広重特集に出演します!

"Invitation au Voyage"

(邦題:旅への誘い)

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2021年11月10日(水)

大学の授業で講師として、浮世絵についてお話しました!

「浮世絵とジャポニスム」(60分)

「第2回 畑江麻里の初心者でも楽しめる浮世絵講座」若い参加者も多く、大盛況で無事に開催いたしました!

【定員になりました】「第2回畑江麻里の初心者でも楽しめる浮世絵講座」

※オンライン、オンサイトはどちらも同じ内容の講座となっています

文化庁・文化財研修事業 浮世絵木版画彫摺技術者育成事業報告

 

竹久夢二学会 例会(於:群馬県立館林美術館/群馬県立近代美術館)

2021年3月7日(日)

インターネット番組にゲスト出演しました!

足立区北千住のインターネット番組Cwaiveにゲスト出演し、美人画研究会をはじめ、足立を描いた浮世絵やその歴史を簡単にご紹介しました♪

番組名:Coming Soon!文教国際です!

2021年3月6日(土)

日本顔学会25周年記念シンポジウム(於:資生堂)

2021年2月28日(日)

第26回美人画研究会をZOOM併用で開催しました!

2021年2月21日(月)

ラジオ番組で「美人画研究会」の活動報告をしました!

13時~かわさきFM

2021年2月22日(日)

朗読劇(美人画研究会協力)に出演しました!

『雪の女王』 雪の女王役  『12の月の物語』 ホレーナ役

2021年1月31日(日)    「第1回 畑江麻里の初心者でも楽しめる浮世絵講座」大盛況で無事に開催いたしました!

【定員になりました!】第1回 畑江麻里の初心者でも楽しめる浮世絵講座を開催♪

お陰様で定員(20名)になりましたので、予定より早く募集を終了いたします

 

畑江まで直接ご連絡お願いします~♪

ukiyoe.concierge@gmail.com

11月下旬           浮世絵コンシェルジュとして映画『宮城野』の魅力を監督と語ります!

舞台に出演しました

2020年10月9、10、11日

初めて「美人画研究会」が舞台『浅草夢やしき』の舞台協力になり、芸者・タマ子役で出演しました!

舞台稽古を重ねるごとに台詞や出番が増え、シーン⑤では、日本舞踊を舞った後「美人画研究会」の宣伝をする場面もありました

【舞台公演情報】

2020年10月

  9日(金)15:00 19:00

10日(土)13:00 17:00

11日(日)11:00 15:00

 

チケット:5000円

会場:雷5656会館5階「ときわホール」

住所:東京都台東区浅草3-6-1

 

※チケットご予約※

コロナ対策徹底で、劇場での購入ができないため、

 

畑江まで直接ご連絡お願いいたします~♪

ukiyoe.concierge@gmail.com

舞台出演がきっかけで、学生時代お世話になった、渋谷円山町芸者・鈴子姐さんに再会しました!

【中止】コロナの影響で、非常に残念ながら中止になりました

2020年10月10日(土)

中山道広重美術館2020年度連続講座にて講演「広重とジャポニスム」

2020年9月5日(土)

第24回美人画研究会を満員御礼で無事に開催いたしました!

2020年7月25日(土)

すみだ北斎美術館にて開催

映像情報メディア学会・研究イノベーション学会にて登壇!

登壇内容「浮世絵から現代の美人画へ」は無事好評におわりました

2020年2月9日       第22回美人画研究会を満員御礼で無事開催しました!

学会誌に論文が掲載されました

日本フェノロサ学会機関誌『LOTUS』第39号に

論文が掲載されました

「大正期「複製浮世絵」における高見澤遠治

―その卓越した精巧さの実見調査と、岸田劉生らに与えた影響の考察―」

 

竹久夢二学会で研究発表しました

2019年3月30日(土)

竹久夢二学会にて研究発表(於:拓殖大学文京キャンパス国際教育会館)

竹久夢二の「美人画」の線 ― 現代浮世絵彫師の作品の分析から ―」

2018年11月 

文教大学の授業にて浮世絵をテーマにゲストスピーカーとして講演

※こちらに掲載しました

2018年9月  

日本フェノロサ学会 研究発表(於:東京藝術大学)

※こちらに掲載しました