母校の稲垣先生にお誘い頂き、サントリー美術館「原安三郎コレクション 広重ビビット」オープニングレセプションへ行って来ました。
戦前から財界の重鎮として活躍した原安三郎氏は浮世絵コレクターでもあり、特に旅好きだったことから、葛飾北斎や歌川広重の名所絵を多く集めました。原氏のコレクションは、揃物の多くが全揃いなのも驚きですが、本展初公開となる≪六十余州名所図会≫≪名所江戸百景≫は全て摺ったばかりの状態のような大変美しい初摺り!色が本当に鮮やかなんです!≪名所江戸百景≫の中には、キラキラ光る雲母を使用した作品もありました!!この雲母や、海面や空のじわじわっとした美しいグラデーションが生み出すぼかしの技法、目にも鮮やかな色合いは、同じ版で何度も摺られた後摺りでは見ることはできず、初摺りだからこそ見られるものです。全て状態の優れる初摺りの作品だけを集めた展覧会。名所絵の名手として絶大な人気を誇る広重の豊かで粋な名所絵をお楽しみ頂けること間違いないです。また、現存数の少ない葛飾北斎の≪千の海≫が全て揃っており、こちらも注目です!
葛飾北斎が≪冨嶽三十六景≫を発表し、歌川広重が≪東海道五拾三次≫を刊行するまでに、江戸期の文学・芸術界は〝旅″に対する興味が次第に高まってきていました。北斎と広重は名所絵(風景画)のジャンルを確立し、多くのシリーズを刊行します。
広重は、画面頂部に加えられる空の「一文字ぼかし」をはじめ、名所絵の効果を発揮した「拭きぼかし」の技法を多用しています。「拭きぼかし」の技法を使用したのは、摺師の腕に任せて版画としての面白みを存分に引き出そうとしたからではないかと考えられます。浮世絵が絵師個人で制作するものではなく、彫師や摺師の腕が加わってはじめて最大限の魅力を発揮できることを、広重は承知していたのです。また、「あてなしぼかし」という摺師に全て任せるぼかし摺りの技法も、広重は好んで使っています。これは偶然に頼る技術で、一図ごとにぼかしの模様が異なって仕上がります。その技法は、何も彫っていない平らな板に水を垂らし、更に墨や色を一滴垂らし、広げた所を摺り取るだけの、人任せ、運任せのものでした。
広重は、直接摺りの現場に立ち会い、色や摺りを指定して拘りぬいて制作しました。初摺りを見ると、後摺りの作品では全く気付かなかった広重の工夫や意図を見つけることができます。例えば、≪美濃 養老の滝≫は、後摺りの作品を見ると、ただ布を垂らしただけの平坦な滝で、広重は観察眼がなかったのかのようにと思います。しかし、初摺りを見ると、広重が木目を活かして滝の水の流れを表現しようしていた意図が感じられます。
稲垣先生によると、広重の名所絵の魅力は「じわじわっ」としたぼかしの技法にあるそうです。この「じわじわっ」は、木版画の魅力であり、他の版木ではマネできません。現代の技術で印刷をするとスッキリとした線を作ってしま、手作りの肌合いが全く出ません。
私は現在、浮世絵の美人画を中心に研究していますが、大学院入試時に、歌川広重の名所絵を研究していました。この時に研究していた≪東海道五拾三次 日本橋 朝之景≫、こちらは初摺りなのですが、前期のみ展示されています。
この作品は、日本橋からの大名行列が京へ向けて出発する場面を描いたものです。日本橋を取り上げる際、通常は横向きであり、富士山や江戸城も定型として描かれますが、この作品には富士山も江戸城もなく正面向きで表されているのが斬新です。地平線近くの朝焼けに染まる茜色の空や、その上に棚引く青い雲、まだ明け切らない空を示した画面上部の藍色のぼかしなど、多彩な色の摺り重ねや組み合わせによって、早朝の風情を描き出す手腕は広重ならではのものです。しかし、これが後摺りになると、この雲がカットされ、美しい空のグラデーションもなくなります。また、この日本橋の作品には変わり図もあります。こちらの変わり図は構図ががらりと変わり、登場人物も多くなっています。
本展初公開となる≪六十余州名所図会≫は、嘉永6年(1856)7月から安政3年(1856)5月までの約4年間にわたり制作された人気のシリーズです。全国68ヵ国(五畿七道で言えば、五畿内5、東海道16、東山道8、北陸道7、山陰道8、南海道6、西海道11)の名所と江戸1点、目録1点の全70点の揃いです。
《三保の松原》
富士山と三保の松原は切っても切れない関係です。富士山を世界遺産にする際、三保の松原も含めるかどうか一悶着あったそうですが、三保の松原も含めて世界遺産になりました。現在観光地化して海岸が汚くなってしまったという意見もありますが、世界遺産に認定されたので、これから当時の美しい状態に戻ることを期待しています。
この広重の作品には、白い帆船が行き交う青く広大な海岸の中央、長くせり出した陸地が三保の松原です。白い砂浜と青々とした松の取り合わせの美しさから、古来より名所とされてきました。謡曲『羽衣』では、「ここから見た春景色はどれも美しく、他とは比べものにならない。」とその美しさを称えています。この作品に捉えられた富士山は、山頂のなごり雪が白抜きで表され、「板目摺り」という版木の木目を摺り出す技法により、立体感が引き出されています。
三保の松原の近くには、大型輸送船が行き来していた清水港があり、江戸と西国を結び年貢米などを送る地として栄えていました。
《江戸 浅草市》初摺、後摺
こちらの作品、浅草寺を描いた作品が2点、初摺りと後摺りを比較できるよう並べられていました。観音菩薩を祀る浅草寺は、江戸の庶民に大変親しまれ、新年用の品を商う12月の縁日は賑わいを見せています。
この二つ、何が違うでしょうか。全体的に引き締まって見える箇所と色が浮いてしまっている箇所が見えます。初摺りの作品は、広重が摺りの現場に立会い、一点ずつ色や摺りを確認しながら仕上げただけあり、星が瞬く夜空に、画面最上部の紫と藍色の二色の雲が美しく、細部まで手の込んだ豊な表現が実現されています。
それに対して後摺りは、初版と同じ版を使っていますが、様々な違いが見られます。夜空に輝く星は消え、空の色も減り、初摺りのぼかしも消え、最上部の雲は紫一色になり、平たく単調な印象になっています。版を重ねた版木が欠けたり磨り減ったりするため、後摺りでは輪郭線に荒さが目立ちます。しかし、後摺りの作品が多く存在することは、この作品が人気であった証拠と言えます。
幻のシリーズ 葛飾北斎≪千絵の海 総州銚子≫
先日、八王子市夢美術館「ますむらひろしの北斎展」を観た際、この≪千絵の海 総州銚子≫ 元に制作された作品が特に印象的で、実物が観たいと思っていました。
葛飾北斎による「千絵の海」は、各地の漁を主題に、変幻する水辺の景色や漁の様子を捉えた10点からなるシリーズです。千絵の海は現存作品が少なく、10点全てを所蔵しているところはほとんどありません。
こちらの作品は、鰯漁で栄えた総州銚子の海が描かれています。ベロ藍の色が美しく、荒々しい大海原の中で打ち寄せる波が岩に砕け、飛沫を残しながらひいていく様子が巧みに捉えられています。北斎はかつてこの地に滞在していたそうです。寄せる波とひく波。二つの波を一つの画面に収めた独創的な構図です。波の様子とは対照的に、画面手舞の舟の穂先には猟師が平然と網を引いています。
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INFORMATION
【お知らせ】
2024年11月23日(土)
14時~16時30分
「第4回畑江麻里の初心者でも楽しめる浮世絵講座」を開講します!
2024年10月
三井住友銀行が発行する小冊子『ことも』に取材撮影され、掲載されました!
※この小冊子はエルダープログラムに加入している方のみに配布する冊子です
SMBC『ことも』10月発行号
巻頭特集
2024年9月21日(土)
映像メディア学会で講演
「浮世絵イノベーション」
※9月28日(土)にこの講演の報告会を森下文化センターで行います
2024年5月26日(日)
京都きもの市場が主催する日本最大級の着物展示会
5/22(水)〜5/27(月)
@東京丸の内KITTE
このイベントにて
「初心者でも楽しめる浮世絵講座」 が大盛況にて開催されました✨
15時〜、16時〜の2回。
(満席クローズ)
2022年11月4日 双子を出産
【テレビ出演】
2022年9月19日(月)
フランスのテレビ局"ARTE"
歌川広重特集に出演しました!
"Invitation au Voyage"(邦題:旅への誘い)
9/19 18:10〜
放映リンクはコチラ
【浮世絵連載(全5回)が掲載中】
「畑江麻里の初心者でも楽しめる浮世絵講座」で取り上げた内容の一部
「浮世絵きほんのき!」(全5回の連載)が、
京都きもの市場が運営するメディアサイト「きものと」に掲載中!
https://www.kimonoichiba.com/media/column/759/
黒一色からフルカラーへ vol.2
https://www.kimonoichiba.com/media/column/795/
浮世絵はどうやって作られる?vol.3
https://www.kimonoichiba.com/media/column/826/
浮世絵の題材はこんなにも幅広い! vol.4
https://www.kimonoichiba.com/media/column/930/
美人画は当時のファッション雑誌!? vol.5(最終回)
https://www.kimonoichiba.com/media/column/1003/
◆2022年7月24日(日)
「第3回 畑江麻里の初心者でも楽しめる浮世絵講座」
14時から16時30分
6/24、7/10と大好評だったので、さらに追加で、オンラインで開催します!
2022年7月21日(木)
都内の大学で、ゲスト講師として講座とワークショップを行いました!
◆2022年7月10日(日)
「第3回 畑江麻里の初心者でも楽しめる浮世絵講座(オンライン)」を追加で開催!
◆2022年6月26日
「第3回 畑江麻里の初心者でも楽しめる浮世絵講座」
今回も定員以上となり、大盛況で開催しました!
2022年6月20日(月)
都内の大学でゲスト講師として講演しました!
◆5月19日(木)
ロータリークラブで講演しました!
「浮世絵美人画にみる評判娘ー笠森お仙を中心にー」
◆4月30日(土)
TOKYO MXテレビ『ぐるり東京江戸散歩』「江戸時代のアイドル」に出演しました!
修士論文で取り上げた「笠森お仙」を中心に、現代のアイドルと女優さんに解説してきました♪
※6/7までTVerという配信アプリで見逃し配信しています
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2022年夏頃
フランスのテレビ"ARTE"歌川広重特集に出演します!
"Invitation au Voyage"
(邦題:旅への誘い)
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2021年11月10日(水)
大学の授業で講師として、浮世絵についてお話しました!
「浮世絵とジャポニスム」(60分)
「第2回 畑江麻里の初心者でも楽しめる浮世絵講座」若い参加者も多く、大盛況で無事に開催いたしました!
【定員になりました】「第2回畑江麻里の初心者でも楽しめる浮世絵講座」
※オンライン、オンサイトはどちらも同じ内容の講座となっています
文化庁・文化財研修事業 浮世絵木版画彫摺技術者育成事業報告
竹久夢二学会 例会(於:群馬県立館林美術館/群馬県立近代美術館)
2021年3月7日(日)
インターネット番組にゲスト出演しました!
足立区北千住のインターネット番組Cwaiveにゲスト出演し、美人画研究会をはじめ、足立を描いた浮世絵やその歴史を簡単にご紹介しました♪
番組名:Coming Soon!文教国際です!
2021年3月6日(土)
日本顔学会25周年記念シンポジウム(於:資生堂)
2021年2月28日(日)
第26回美人画研究会をZOOM併用で開催しました!
2021年2月21日(月)
ラジオ番組で「美人画研究会」の活動報告をしました!
13時~かわさきFM
2021年2月22日(日)
朗読劇(美人画研究会協力)に出演しました!
『雪の女王』 雪の女王役 『12の月の物語』 ホレーナ役
2021年1月31日(日) 「第1回 畑江麻里の初心者でも楽しめる浮世絵講座」大盛況で無事に開催いたしました!
【定員になりました!】第1回 畑江麻里の初心者でも楽しめる浮世絵講座を開催♪
お陰様で定員(20名)になりましたので、予定より早く募集を終了いたします
11月下旬 浮世絵コンシェルジュとして映画『宮城野』の魅力を監督と語ります!
舞台に出演しました
2020年10月9、10、11日
初めて「美人画研究会」が舞台『浅草夢やしき』の舞台協力になり、芸者・タマ子役で出演しました!
舞台稽古を重ねるごとに台詞や出番が増え、シーン⑤では、日本舞踊を舞った後「美人画研究会」の宣伝をする場面もありました
【舞台公演情報】
2020年10月
9日(金)15:00 19:00
10日(土)13:00 17:00
11日(日)11:00 15:00
チケット:5000円
会場:雷5656会館5階「ときわホール」
住所:東京都台東区浅草3-6-1
※チケットご予約※
コロナ対策徹底で、劇場での購入ができないため、
畑江まで直接ご連絡お願いいたします~♪
舞台出演がきっかけで、学生時代お世話になった、渋谷円山町芸者・鈴子姐さんに再会しました!
【中止】コロナの影響で、非常に残念ながら中止になりました
2020年10月10日(土)
中山道広重美術館2020年度連続講座にて講演「広重とジャポニスム」
2020年9月5日(土)
第24回美人画研究会を満員御礼で無事に開催いたしました!
2020年7月25日(土)
すみだ北斎美術館にて開催
映像情報メディア学会・研究イノベーション学会にて登壇!
登壇内容「浮世絵から現代の美人画へ」は無事好評におわりました
2020年2月9日 第22回美人画研究会を満員御礼で無事開催しました!
学会誌に論文が掲載されました
日本フェノロサ学会機関誌『LOTUS』第39号に
論文が掲載されました
「大正期「複製浮世絵」における高見澤遠治
―その卓越した精巧さの実見調査と、岸田劉生らに与えた影響の考察―」
竹久夢二学会で研究発表しました
2019年3月30日(土)
竹久夢二学会にて研究発表(於:拓殖大学文京キャンパス国際教育会館)
「竹久夢二の「美人画」の線 ― 現代浮世絵彫師の作品の分析から ―」