浮世絵コンシェルジュ 畑江麻里

「俺たちの国芳 わたしの国貞」レセプション展

Bunkamuraザ・ミュージアム「俺たちの国芳、わたしの国貞展」のレセプションに行って来ました。

オープニングには、この展覧会の音声ガイドのナレーターを務めた、中村七之助さんが登場し思わず興奮してしまいました。

幕末期に一世を風靡した国芳と国貞。浮世絵三ジャンルのトップに歌川派の絵師の名前が並んだ、評判記『江戸寿那古細撰記えどすなごさいせんき』(嘉永6年刊)には「豊国にかほ(似顔)、国芳むしや(武者)、広重めいしよ(名所)」と記されており、国貞と国芳の活躍を端的に伝えています。この「豊国」は初代ではなく、三代豊国を襲名した国貞のことです。

現在、歌川派といえば、国芳や広重がまず頭に浮かぶ方が多いと思いますが、当時は国貞を柱として、歌川派の絵師たちは文化文政に続く旺盛な制作活動を繰り広げたのです。国貞はこの二人の絵師よりも生涯に制作した浮世絵は3万点以上と圧倒的に多く、人気も別格でした。

 

歌川国貞

国貞は、10代で歌川豊国(後期浮世絵界における歌川派全盛の基礎を作った絵師。歌川派を創始した豊春門下)に入門し、早くからその才能を見込まれた国貞。文化11.12年(1814.15)、29歳の時に発表した、役者大首絵の傑作≪大当狂言ノ内≫シリーズ(7枚揃)の成功を弾みとして、天保15年(1844)「豊国」を名乗りました。(国貞の前に二代目を名乗った豊重がいるため、現代では一般的に三代豊国と呼ばれます。)人気と実力を兼ねそろえた国貞は、役者絵と美人絵の二大ジャンルを精力的に筆を取り、当時随一の大御所絵師として認識されていたのです。

 

歌川国芳

国芳は、豊国に入門した後、すぐに活躍することができず、兄弟子の国直の家に寄宿しながら模索の日々を送りましたが、文政10年(1827)中国で生まれた武勇伝『水滸伝』に取材した≪通俗水滸伝豪傑百八人之一個≫が人気を博したことにより、武者絵の国芳としての地歩を確立しました。天保末以降、三枚続きの大画面を駆使したダイナミックな構図や、洋風表現を用いた奇抜な表現の浮世絵が注目を集め、天保の改革の取り締まりが緩み始める弘化4年(1847)頃から、役者を動物や器物に擬人化するユニークな表現を確立し、国芳の才能が開花しました。

 

七之助さんの音声ガイドを聞きながら、ボストン美術館の素晴らしい作品を心行くまで堪能してきました。

この日限定で、国貞作品の撮影許可の場所があったので、ご紹介したいと思います。

歌川国貞≪本朝風景美人競≫天保初期頃

「相模江ノ島」「大和吉野」「駿河三保」「陸奥松島」

美人と日本各地の名所を小間絵に描きこんだ揃い物のうち四図。藍摺りの名所の周りには吊灯篭(針金に板ガラスや色ガラスのビーズが装飾されたもの)が華やかで目を引きました。四人の女性全て裸足で描かれていますが、「大和吉野」(中央上)黒頭巾を被った藍一色の着物の女性は寒さに震えているようにも見えます。この女性について、源義経と静御前の切ない別離の場を描いたものではないかとの指摘もあるそうです。

歌川国貞《見立邯鄲》 

透けた団扇からのぞく長い洗いざらしの髪の美人の作品。こちらの女性は、当時人気の女形、五代目瀬川菊之丞の大首絵の可能性もあるそうです。 

「邯鄲」を元にした作品で、藍色の背景にはその物語の情景が描かれています。 

「邯鄲」と聞くと、春信の邯鄲が頭に浮かびますが、国貞の邯鄲は女性がクローズアップで捉えられ、春信のものとはまた違った魅力があります。盧生青年の儚い夢と、小さな蝶を見つめる女性の心情が重ねられ、エモーショナルな美人絵になっています。(「邯鄲」とは、中国の戦国時代、盧生という貧しい若者が邯鄲の宿で仙人に出会い、不思議な枕を借りてひと眠りし、紆余曲折を経て立身出世をする体験をします。すると、店の主人が粟の飯が炊けたことを知らせます。盧生が体験したことは短い間の夢で、彼は出世や栄華も夢のようなものだと悟り故郷に帰っていく、という話です。)

歌川国貞

「松葉屋内 粧ひ わかな とめき」「中万字や内 八ツ橋 わかば やよひ」「扇屋内 花扇 よしの たつた」「姿海老屋内 七人 つるじ かめじ」

「弥玉内 顔町 まつの こなつ」

吉原を代表する五人の名だたる遊女を「ベロ藍」(オランダを通して輸入された化学染料の青で、ベルリン藍の略称。かつてプロシア王国の首都であったベルリンでできた染料で、プルシアンブルーのこと。)の藍色だけで表現された作品です。画面上部に遊女と禿の名前、そして夜桜が表され、禿を引き連れた遊女の道中の姿が見えます。一見、藍一色だけと思いきや、遊女と禿の口元に注目すると唇か紅色になっていました。主に藍色だけですが、衣装や簪など華やかな作品です。

 


歌川国貞 
「江戸町壱丁目 扇谷内 花扇」「角町 大黒屋内 大淀」「角町 大黒屋内 三輪山」
こちらも吉原の名立たる遊女の花魁道中の作品です。先程の作品はベロ藍の藍が中心、画面上部には夜桜が表されていましたが、こちらはフルカラーになり、画面上部には月夜に雁の群れが飛ぶ様子が描かれています。吉原一丁目にある大見世扇屋と、吉原の見番(総合窓口)を務める角町の大黒屋庄六の遊女。「花扇」と聞くと、喜多川歌麿の四代目の花扇が浮かびますが、花扇は扇屋の別格の高級遊女でした。着物の柄もとても凝っていて、画面左の三輪山の衣装は大輪の菊、画面中央の大淀は桜と音曲を奏でる人物、そして花扇は鞠や羽子板が描き込まれていました。 

歌川国貞≪全盛遊 三津の あひけん≫ 
「京嶋原」「江戸新吉原」「大坂新町」 
江戸時代の三大都市、京・江戸・大坂それぞれの遊郭である、島原、吉原、新町の遊女が狐拳(じゃんけんの一種)をしている様子が見えます。画面上部のコマ絵には、狐、猟師、庄屋が描かれているので、「あいけん(あいこ)」となっていることがわかります。コマ絵の隣には、当時活躍した俳諧師の句が添えられていました。 
京は野々口立圃、江戸は宝井其角、大阪は西山宗因 

歌川国貞≪新吉原仮宅之図≫ 
文化13年(1816)火災で吉原が焼失し、浅草周辺の土地で営業が許された臨時の遊郭の様子が描かれています。格式高い吉原とは異なる風情が見られる仮宅。遊女たちの着物の着こなしもゆったりしています。 
画面中央の女性を遠くから見たとき、菊川英山風の顔つきに見えました。

メニュー

INFORMATION

【お知らせ】

2024年11月23日(土)

14時~16時30分

「第4回畑江麻里の初心者でも楽しめる浮世絵講座」を開講します!

2024年10月

三井住友銀行が発行する小冊子『ことも』に取材撮影され、掲載されました!

※この小冊子はエルダープログラムに加入している方のみに配布する冊子です

SMBC『ことも』10月発行号

巻頭特集

2024年9月21日(土)

映像メディア学会で講演

「浮世絵イノベーション」

 ※9月28日(土)にこの講演の報告会を森下文化センターで行います

2024年5月26日(日)

京都きもの市場が主催する日本最大級の着物展示会

5/22(水)〜5/27(月)

@東京丸の内KITTE

このイベントにて

「初心者でも楽しめる浮世絵講座」 が大盛況にて開催されました

15時〜、16時〜の2回。

(満席クローズ)

2022年11月4日 双子を出産

 【テレビ出演】

2022年9月19日(月)

フランスのテレビ局"ARTE"

歌川広重特集に出演しました!

"Invitation au Voyage"(邦題:旅への誘い)

 9/19 18:10〜

放映リンクはコチラ

【浮世絵連載(全5回)が掲載中】

「畑江麻里の初心者でも楽しめる浮世絵講座」で取り上げた内容の一部
「浮世絵きほんのき!」(全5回の連載)が、
京都きもの市場が運営するメディアサイト「きものと」に掲載中!

 

一点もの?大量生産? vol.1

https://www.kimonoichiba.com/media/column/759/

 

黒一色からフルカラーへ vol.2

https://www.kimonoichiba.com/media/column/795/

 

浮世絵はどうやって作られる?vol.3

https://www.kimonoichiba.com/media/column/826/

 

 浮世絵の題材はこんなにも幅広い! vol.4

https://www.kimonoichiba.com/media/column/930/

 

美人画は当時のファッション雑誌!? vol.5(最終回)

https://www.kimonoichiba.com/media/column/1003/

 

◆2022年7月24日(日)

「第3回  畑江麻里の初心者でも楽しめる浮世絵講座」

14時から16時30分

6/24、7/10と大好評だったので、さらに追加で、オンラインで開催します!

2022年7月21日(木)

 

都内の大学で、ゲスト講師として講座とワークショップを行いました!

 

◆2022年7月10日(日)

「第3回  畑江麻里の初心者でも楽しめる浮世絵講座(オンライン)」を追加で開催!

 

◆2022年6月26日

「第3回  畑江麻里の初心者でも楽しめる浮世絵講座」

今回も定員以上となり、大盛況で開催しました!

インスタグラム@hataettiで近況を更新中!

フォロワー3000人を突破しました!

◆Instagramのサイトは、

コチラです!

 

 お気軽にFollow Me

2022年6月20日(月)

都内の大学でゲスト講師として講演しました!

◆5月19日(木)

 ロータリークラブで講演しました!

「浮世絵美人画にみる評判娘ー笠森お仙を中心にー」

◆4月30日(土)

TOKYO MXテレビ『ぐるり東京江戸散歩』「江戸時代のアイドル」に出演しました!

修士論文で取り上げた「笠森お仙」を中心に、現代のアイドルと女優さんに解説してきました♪

※6/7までTVerという配信アプリで見逃し配信しています

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2022年夏頃

フランスのテレビ"ARTE"歌川広重特集に出演します!

"Invitation au Voyage"

(邦題:旅への誘い)

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2021年11月10日(水)

大学の授業で講師として、浮世絵についてお話しました!

「浮世絵とジャポニスム」(60分)

「第2回 畑江麻里の初心者でも楽しめる浮世絵講座」若い参加者も多く、大盛況で無事に開催いたしました!

【定員になりました】「第2回畑江麻里の初心者でも楽しめる浮世絵講座」

※オンライン、オンサイトはどちらも同じ内容の講座となっています

文化庁・文化財研修事業 浮世絵木版画彫摺技術者育成事業報告

 

竹久夢二学会 例会(於:群馬県立館林美術館/群馬県立近代美術館)

2021年3月7日(日)

インターネット番組にゲスト出演しました!

足立区北千住のインターネット番組Cwaiveにゲスト出演し、美人画研究会をはじめ、足立を描いた浮世絵やその歴史を簡単にご紹介しました♪

番組名:Coming Soon!文教国際です!

2021年3月6日(土)

日本顔学会25周年記念シンポジウム(於:資生堂)

2021年2月28日(日)

第26回美人画研究会をZOOM併用で開催しました!

2021年2月21日(月)

ラジオ番組で「美人画研究会」の活動報告をしました!

13時~かわさきFM

2021年2月22日(日)

朗読劇(美人画研究会協力)に出演しました!

『雪の女王』 雪の女王役  『12の月の物語』 ホレーナ役

2021年1月31日(日)    「第1回 畑江麻里の初心者でも楽しめる浮世絵講座」大盛況で無事に開催いたしました!

【定員になりました!】第1回 畑江麻里の初心者でも楽しめる浮世絵講座を開催♪

お陰様で定員(20名)になりましたので、予定より早く募集を終了いたします

 

畑江まで直接ご連絡お願いします~♪

ukiyoe.concierge@gmail.com

11月下旬           浮世絵コンシェルジュとして映画『宮城野』の魅力を監督と語ります!

舞台に出演しました

2020年10月9、10、11日

初めて「美人画研究会」が舞台『浅草夢やしき』の舞台協力になり、芸者・タマ子役で出演しました!

舞台稽古を重ねるごとに台詞や出番が増え、シーン⑤では、日本舞踊を舞った後「美人画研究会」の宣伝をする場面もありました

【舞台公演情報】

2020年10月

  9日(金)15:00 19:00

10日(土)13:00 17:00

11日(日)11:00 15:00

 

チケット:5000円

会場:雷5656会館5階「ときわホール」

住所:東京都台東区浅草3-6-1

 

※チケットご予約※

コロナ対策徹底で、劇場での購入ができないため、

 

畑江まで直接ご連絡お願いいたします~♪

ukiyoe.concierge@gmail.com

舞台出演がきっかけで、学生時代お世話になった、渋谷円山町芸者・鈴子姐さんに再会しました!

【中止】コロナの影響で、非常に残念ながら中止になりました

2020年10月10日(土)

中山道広重美術館2020年度連続講座にて講演「広重とジャポニスム」

2020年9月5日(土)

第24回美人画研究会を満員御礼で無事に開催いたしました!

2020年7月25日(土)

すみだ北斎美術館にて開催

映像情報メディア学会・研究イノベーション学会にて登壇!

登壇内容「浮世絵から現代の美人画へ」は無事好評におわりました

2020年2月9日       第22回美人画研究会を満員御礼で無事開催しました!

学会誌に論文が掲載されました

日本フェノロサ学会機関誌『LOTUS』第39号に

論文が掲載されました

「大正期「複製浮世絵」における高見澤遠治

―その卓越した精巧さの実見調査と、岸田劉生らに与えた影響の考察―」

 

竹久夢二学会で研究発表しました

2019年3月30日(土)

竹久夢二学会にて研究発表(於:拓殖大学文京キャンパス国際教育会館)

竹久夢二の「美人画」の線 ― 現代浮世絵彫師の作品の分析から ―」

2018年11月 

文教大学の授業にて浮世絵をテーマにゲストスピーカーとして講演

※こちらに掲載しました

2018年9月  

日本フェノロサ学会 研究発表(於:東京藝術大学)

※こちらに掲載しました